現パロ
キルリ





「そっか」


ちくりと心臓の近くが痛くなって、花びらが1枚どこかへ飛んだ。




花吐き病



「リッド、見つけた」
「何しにきたんだよ」
「隠しても無駄だよ、具合悪いんだろ、無理はするな」
「………もどれよ、キール……」
「お前の顔色が良くなったら戻るさ」
「……お節介」
「お前ほどじゃあないさ」


何時からだったろうか、校庭の裏、寂れた倉庫の横、人気の無い誰もいない場所……だったこの場所にこいつが来るようになったのは。
キールは背中を擦るでも何をするでもなくただ横に座るだけだった。いつものことだった。彼はただただ横に座り俺を労る。俺は彼の横で嗚咽を出しながら異物を吐き出すしか出来なくて、自分が酷く惨めに思えた。それすらもいつものことだった。



「今日は長いな」
「気持ち悪いだろ、花なんて、花なんて口から吐くんだ、こんなの、人間じゃない」
「そうだな、ううん、ぼくは……僕は、リッドとは違う意見かな」
「は……」
「言い方は悪いが、とても興味深い、お前には悪いけど」
「研究対象としてか」
「はずれ、いや、当たりかな」
「お前、ふざけるなよ」


今日のキールは何とも歯切れが悪い。手に顎をのせて思案顔をする。ようやく胃の中のものが収まってきた俺はそのまま立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。は。目の前には幼なじみの彼の顔。表情は無かった。ただいつもの様にいつも通りのいつもの台詞を吐くのだ。何とも性格が悪いことで。



「 僕はお前がこのまま不幸になる事を望んでいるからな」
「ほんと、相変わらず嫌な奴だなお前」


一片俺の口から零れた花びらを幼なじみが啄み咀嚼する。なんて悪趣味。悪趣味で、どうしようもない。だけれど。だけれどそれを責める権利は俺には無いように思われた。あまりにも報われない。まるで自分を見ているようで、眩暈がした。可哀想で可愛そうで。俺の、幼なじみ。それでも。それでも俺は、


「……本当に、嫌なヤツ」



幼なじみの口から零れた花びらを、俺はそっと啄んだ。




花は奇病









花吐き病。リッドが患った奇病の名前だ。あらゆる医学、薬物、はたまた占術の本を読んだ僕ですらその奇病の詳細を知ることはおろか、名前すら、見つけることは出来なかった。花吐き病とは、何かの発作の様に花を吐き続ける事から因んで僕らの幼なじみの女の子が付けた名称だった。何故彼がそんな病に悩まされているか……僕は、僕だけは知っていた。何事にも原因があり、結果がある。きっとそれは。それは、彼のせいだ。僕はリッドの想い人を知っていた。当たり前だ。彼の一番近くには、いつだって僕がいる。彼が最初に花を吐き出した日。彼の想い人にあたる人物に、気になる人が出来たという根も葉も無い噂を彼が知ったからだった。彼は何事も無いように振舞っていたけれど、指先が僅かに震えていて。そっか。ただ一言、空を見上げて机に花びらが1枚舞った。窓なんて開いていないのに。彼は気づいていないふりをしている。胃から込み上げてくるものは、胃液でもはたまた花なんかでもなくて。もっと別のもののはずなのに。彼は一言それを口に出すことができない。全てをさらけ出してしまえば、きっとこの病だって治るに違いないのに。彼は全てを分かっていながらなおこの状況に甘んじる。そんなに。そんなにも彼奴が良いのか。僕はとても惨めになった。僕も結局は幼なじみと同じだったのだ。僕の机にも一片の花びらが舞った。


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